2日目 クラーケン
新大陸に向かう最中に様々な出来事があった。
クジラに遭遇したり、大嵐に遭ったりと、この航海で
「まだ着かないのか?船長。」
「まだですよ、総督。」
「………総督という呼び名は慣れないな。」
我は新大陸の総督になった。
まあ、色々あって島流しにされた。
我、マールム王子はマールム総督になったんだ。
国王ではないが、領主みたいなものだし、マシだろう。
それなら我は新大陸で順風満帆に生活してやろうではないか、ハハハハハ!!
我がそんな事を考えていると、遠くから船が見えた。
「ん?船長、何だあの船は。」
「分かりません、多分この航路は我が国の交易路なので我が国の船でしょう。」
「………そうか、じゃあ我は部屋で寝るとするか。」
「はい、航海は我々に任せてください。」
「ああ、任せるよ。」
我は
我は目を覚ます。
すると何か異様な雰囲気を感じた。
静かだ、静かすぎる。
停船でもしてるのか?
だが大陸などどこにも見ていない。
時間もさほど経っていない。
我は不思議に思い、忍び足で甲板に向かった。
甲板に出ることが出来る扉の前に着くと、少しだけ話し声がする。
そして我は扉に耳を付ける。
「あの王子、眠ったか?」
「ああ、眠ってるよ。」
「それじゃあ、国王の名で王子を処分しますか!」
い、今、我を処分すると言ったか?
しかも父上に殺されるのか………。
あのお別れは嘘だったのか?
まさか母上も、弟も妹も、あの挨拶は嘘だと言うのか………。
早くこの船から降りないと、近海に船らしきものがあったはず、あれに助けを求めよう。
俺はすぐに振り向き、逃げようとすると、後ろに大男がそこにいた。
「王子、今の話聞いていたのか?」
「ま、待て!話せば―――」
我はそう言った途端、その大男は我に蹴りを入れる。
我はその蹴りを両腕で止めようとするが、蹴られた瞬間、腕に衝撃が来た。
その瞬間、腕に痛みが起き、そのまま扉ごと甲板まで飛ばされた。
甲板に居た人はその音に驚き、こちらを見た。
「何だ何だ!?………って王子かよ。」
「まさか俺達の会話を聞いていたのか?」
船の乗組員はヘラヘラと我を嘲笑う。
我はこの場から逃げたかったが、全身の痛みで逃げられない。
それに我はあいつらの言葉が理解が出来なかった。
先程までニコニコと笑顔で我と話していた船長や、他の船員も殺そうとしていたのか!?
更に我の父上も我を何故殺そうとしたのも理解出来ない!
何故だ!何故だ何故だ何故だ!!
「何故、我を殺すんだ!我はお前らに何をした我はお前らを知らぬぞ!!」
「何って、金の為に王子を殺すに決まってんじゃん?」
「あの王様も罪だよな、だって自分の子を殺すんだからなー。」
「だが王室の面汚しの王子を殺すのは当たり前だろうな、なんせ王国の尊厳が保たないからな!」
そう船長が言うと、他の船員は大きく、そして下品な声で笑った。
すると船長は立ち上がると、酒瓶を持ちながら近付いてくる。
「王子すまんな、俺達はお前に対する個人的な恨みはない。恨むならお前の父、国王陛下を恨むんだな!」
そう言って船長は酒瓶をグビグビと一気に飲む。
「まあ、こんな所では殺さねぇ。さっき船影らしきものが見えただろ、あの船でお前を殺すんだそうだ。」
そう船長が指を差した先には先程見えたより大きな軍艦があった。
するとこっちに飛び移る軍服姿の女性が見えた。
「これはこれは、麗しき中将殿。」
船長はその中将に敬礼をすり。
「船長さん、お世辞は結構よ。久しぶりだな、マールム王子。」
我はこの声を知っている………。
小さい頃によく遊んでいた女の子の声だ。
我はゆっくりと頭を上げる。
そこに居たのは紛れもない、我の唯一の幼なじみでお友達のルカだった。
美しい水色の長い髪、白く透明な肌、そして可愛らしい笑顔が特徴の彼女だったが、軍人になった途端、長かった髪を短くし、性格も厳しくなり、軍人になってから会うことも無かったのに。
「ルカ、何でお前が………。」
「何でって、貴方を処刑する為に引き取りに来たのよ。」
久しぶりの相手に死刑宣告されるとは笑わせるな、ハハハ………。
「ルカ………お前もそんな事を言うのか?」
「囚人は黙りなさい。」
するとコートの内ポケットから金貨が入った小さな麻の袋を取り出し、船長に渡す。
「これほどの大金、ありがとうございます中将殿。」
「いえ、これは国王からの代金よ。さて君達、彼を私の戦艦に連行しなさい。」
すると、ルカの後ろに待たせていた兵士達が返事をする。
「「ハッ!」」
我は両手を腕で縛られ、そして連行される。
我は死ぬのか?
我は殺されるのか?
我は………我の人生は一体何だったんだ…………?
神よ、どうか我にもう一度チャンスをくれ………。
我はそう自分の人生を絶望し、神に懇願していると、突然船がゆっくりと揺れ始め、周辺に轟音が響き始める。
「な、何だ!」
「狼狽えるな、海底火山が噴火しただけだろう!早く連行しろ!!」
すると船長が足を震えながら、頭を抱える。
「こ、こここここの揺れは、まさか!?」
「何だ船長!」
すると海面から無数の棒が飛び出した。
………いや、生物の足だ。
しかもイカかタコの様な足だ!
「く、クラーケンだぁああああああああぁぁぁ!!!!」
「クラーケンだと!?早く大砲を発射するように伝えろ!」
「ハッ!」
兵士が戦艦の方に向かうと、先程海面から飛び出した足が振り落とされ、一気に戦艦を真っ二つにした。
立派な戦艦はベキベキと音を立てながら、裂け、爆発し、そして浸水が始まる。
戦艦から様々な将兵の叫び声が聞こえ、阿鼻叫喚の地獄と化した。
「わ、私の戦艦が、兵士が………。」
ルカはその場に膝を付き、ショックを受ける。
船長はすぐに立ち上がり、船員に指示を送る。
「早くこの海域から逃げるぞ!クラーケンに襲われた船は生き残れない!!」
だが、クラーケンはすぐにこちらの我が乗っている船に向かって来た。
クラーケンの足が海面から飛び出し、まるで極東の大国にあるという火薬矢の様な速さでマストを直撃し、倒れる。
船長は小便を漏らし、怯えきった声で叫ぶ。
「もう駄目だ、お終いだ。」
「船長、大砲準備しました!」
一人の船員が船長に対して叫ぶ。
「辞めろ、勝てるわけが無い!」
だが大砲は既に装填され、縄に火を付ける。
大砲から爆音が飛び出し、辺りから硝煙が臭う。
「ああっ、殺される………。」
船長がそう呟いた瞬間、クラーケンの足が再び振り落とされ、船に叩きつける。
船はその衝撃で一瞬ほぼ海に沈み、我もみんなも宙を飛んだ。
ああっ、我の人生は本当に退屈で素っ気ないものだった。
それが呆気なく終わるのだ。
父上よ、貴様の望んだ我の死だ、喜べ!!
「………嗚呼っ、我は人どころか神にもにも愛されていなかったのだな………。」
我はそう呟き、そして目を閉じる。
我はその後、気を失った。
島流し王子の建国公記 ヨッシー @Yoshi4041
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