島流し王子の建国公記

ヨッシー

1日目 王子の裁判と判決

 オレの名前はマールム。

 アウルム王国第一王子で、次期国王だ。

 我は昔から甘やかされて育った。

 完璧な教育に、完璧な生活環境。

 何不自由ない生活を過ごしてきた。

 それなのに………それなのにっ!


「判決、王子を………島流しにする!」


 どうしてこうなったんだぁぁぁー!?




 ここは、とある異世界の中世―――――

 この世界には中央には広大な大陸があり、その西側の端に強大な力を持つ国があった。

 その国では世界の富の半分を支配していた王国でその国の名はアウルム王国。

 国民は皆豊かであり、貧困知らずで多くの貧しい移民が憧れ、夢を持ち、アウルム王国に流入していた。

 白人、黒人、黄色人種のみならず、エルフやドワーフ、ゴブリンに魔族に獣人などの亜人がこの国に集まり、多種族国家であるから「種族のサラダボウル国家」と呼ばれていた。

 首都のウルプスは公園などの少しの緑を除いて、全て建物と放射状に広がる道路であり、夜になって海から見ると天の川、近くの山の頂上から見るとまるで満天の星空の様に光り輝いていた。

 その光景は国の名、黄金アウルムと呼ぶのに相応しい都市であった。

 そんな豊かな国には格式のある王家が国を支配していた。

 国王のみならず、王家の殆どの人は国民に愛され、慕われていた。

 ただ1人を除いて………。


「王子!マールム王子!!どこにいらっしゃるんですか!?」


 1人の執事が王子を探すため、王宮を走り回っていた。

 すると、そこに王子が現れる。


「何だ爺や、五月蝿(うるさ)いぞ。」


 王子は宮殿内をほぼ全裸で宮殿内を歩いていた。


「で、殿下!何ですかその姿は!!」

「何だ爺や、我がどのような姿になってて何が悪い………?」


 王子はそう言うと、執事は背筋を凍らせ、冷や汗を垂らしていた。


「い、いいえ、何でも御座いませぬ………。」

「フンそうか、なら早く要件を言え。」

「は、はい!国王陛下より伝令、即刻、王国最高裁判所に出廷しろとの事………です。」


 周りにいた衛兵や執事、メイドなどが多くそこに居たが、宮廷内がその執事の言葉に沈黙する。

 すると突然、王子は大きな声で笑う。


「ハハハ!爺や、今日は何月何日か言うてみよ!」

「えっ、た、確か今日は4月1日で御座います、殿下。」

「爺や、これを意味しているのは何だ?これはエイプリルフールだ!宮殿でも平民のそういう文化が浸透したのだな、実に素晴らしい!」

「は、はあ………そ、そうなのですか?」

「ならば仕方あるまい、我は向かうぞ、おいメイドども!!」


 王子はすぐに宮殿に居るメイドを呼び、そして彼女らに王子の服を着させる。

 そして軽やかなステップで螺旋階段を降り、王宮の出口を出る。

 するとそこには大勢の警察が待機していた。


「マールム王子、貴方を今から裁判所に出廷させて頂きます。」

「良い良い!早く手錠を掛けて我を連れて行け!!ハハハ。」


 王子は満面の笑みで両腕を差し出す。

 だが、警官は王子の笑いに誰も笑わず、それどころか王子の反応を不思議に感じたのか複数の警官は首を傾げていた。

 1人の警官は王子に手錠を掛け、連行する。

 馬車は少し古臭く、だが頑丈な造りであった。

 王子は笑顔で乗り込み、まるで試合会場に向かう子供の様な無邪気な笑顔であった。

 王子が馬車に乗り込むと、馬車はすぐに発車した。

 小さな窓からはウルプスの市民が笑顔で生活している様子が見えた。


「流石父上だ、年が重ねていく内に都市が成長している。次期国王として我も頑張らなくてはいけないな!!」


 そう王子が言っている内に、すぐ王国最高裁判所に到着した。

 馬車の後ろ扉が開くと、手錠に付いている縄を引っ張りながら警官が「降りろ」と無言で親指を馬車の外に向けて腕を動かしながら指示する。

 王子はその態度に憤慨し、激怒する。


「貴様、これが嘘だからとその態度は許さぬ、この催しが終わればどうなるか覚悟しとけ………。」


 だが警官は王子の態度を無視し続ける。

 王子は警官を睨みつけながら、裁判所へと入っていく。

 途中、裁判所の入口で刑務官も同行し、法廷に入った。


「被告人の入廷である、静粛に!」


 誰かがそう言って、法廷の扉がゆっくりと開く。

 法廷は広々としており、まるで闘技場、もしくは元老院のように円で囲んでいる。

 そして裁判長の席には国王が座っており、判事にはこの国の王族や貴族が座っている。


「父上、やはり父上はエイプリルフールにご興味がおありだったのですね、そう言ってくれれば私も手伝っていたのに………。」


 だが、国王は頭を傾げている。

 群衆もザワザワとし始めている。

 何かがおかしいと王子は思い、王子は恐る恐る国王に聞く。


「ち、父上?これはエイプリルフールではないのか?4月1日なのだから………。」

「ハハハ何を言っている、我が息子よ。」


 国王が笑いながら答える。

 その国王の発言と態度に王子は目を大きく開き、背筋を伸ばし、笑顔になる。


「では、やはりエイプリ―――――」

「余はエイプリルなんちゃらは知らぬぞ。」


 その国王の発言に王子は先程の笑顔が段々と薄れ始め、王子は現状を知る事になる。

 国王は木槌を机に叩き、群衆を静かにさせる。


「ではマールム王子の裁判を始める。マールムよ、お前は女を侍らせていたようだが。」

「………ああ、居る。」

「それでは、お前はその女に何をプレゼントした?」


 国王は王子を睨みつけながら話す。

 王子は国王の父には嘘を付けない人間であり、彼は正直に答える。


「お、我は船をプレゼントした………それの何が悪い?」


 すると群衆がざわめき始める。

 国王は木槌を机にまた叩き、静粛にさせる。


「皆、静粛に。マールムよ、それは一体どういった船だ?」

「どんな船かって、多くの人を載せれて、しかも衣食住が出来る船を欲しがってたから、軍港にあった適当な小さな船をあげたよ。」


 王子のその発言に国王のみならず、群衆も溜め息を吐く。

 王子はその状況に理解が出来ず、大声で騒ぎ始める。


「な、何だ!?小さい船だから問題ないと思ったんだ!だからあげたんだ!」

「………マールムよ、あれは我が国で最先端の駆逐艦だぞ。」

「な、何だと………?」

「あれは我が国初の高速船で、遅くて大きな戦艦以外に、高速で小さな戦艦を建造したのに、その船が敵国に取られているのだぞ!!」

「じゃあ、あの女は………。」

「………敵国のスパイだ、馬鹿者。」


 王子は落胆し、その場に崩れ落ちた。


「そ、そんな馬鹿な……彼女は我を愛していると………。」

「だが、彼女はスパイだった。そういうことだ。それにお前は不当に臣民を逮捕していると余の耳に入っているが?」

「そ、それはオレの通行を邪魔したり、無愛想な態度を取っていたからであって………。」

「そうか、では彼らはお前に危害を加えたか?」

「………く、加えてない。」


 国王は頭を抱え、深い溜め息を吐く。


「お前の育て方をどう間違えたんだ………マールムよ。」


 国王はそう小声で呟く。


「………マールム、お前の判決をここで言い渡す。お前は島流しの刑だ。大洋を隔てて西にある新大陸の総督として永遠に頑張るが良い。勿論、お前の王位継承権は同時に取り下げさせて貰う。」

「ま、待ってくれ、父上!そんな横暴な―――」

「問答無用!貴様の運命は決した!!翌日にお前の島流しをすぐに行う。裁判は閉廷だ!!刑務官、マールムを簡易牢に連行しろ。」


 刑務官と警察官に脇を捕まれながら、そのまま王子は連行された。

 王子は裁判後、顔が青ざめ、冷や汗を掻きながらゆっくりと牢屋の方へドボドボ歩いていく。

 簡易牢屋に着くと、王子は牢屋に入るのを躊躇うが、刑務官が無理矢理押し込み、王子を牢屋に入れた。

 王子はその夜、二人の刑務官の監視の下に居たが、出された食事に手を付けず、さらに鉄格子が付けられた窓の方を向かってずっと見ているだけで何もしなかった。



 朝が来た―――――

 王子はこの夜、遂に一度も寝る事が無かった。

 すると鉄格子の扉が開き、刑務官が話しかける。


「王子様、今から連行しますので両腕を出してください。」


 王子は無言で振り向き、手を差し伸べる。

 刑務官は手錠を付け、そして牢屋から王子を出し、港へと連行する。

 誰も起きていない早朝に連行することで、逆上した市民が王子に危害を与えないようする為である。

 王子を馬車に乗せ、そして発車する。

 早朝の大都市は誰からの声も無く、静かで暗く青い街の景色が広がっている。

 港に着くと、国王夫妻、そして弟や妹がそこで待機している。

 馬車は停車し、扉を開き、そして王子を降ろす。

 すると国王はゆっくりと王子に近付き、頭を下げる。


「マールムよ、余は臣民の死刑にすべきという声を避ける為、お前を守るために島流しにしたのだ。お前を守れなかった父を赦しておくれ。」


 女王は王子の傍によると、王子を急に強く抱く。

 女王は声を震わせ、涙を流しながら話す。


「マールム、総督になっても帰ってきなさい。母さんだけじゃなくて皆も待ってるからね。」


 そして弟や妹は元気よく王子を励ます。


「兄上、新大陸でも頑張って下さい!私が次期王子として頑張ります。」

「お兄様、頑張れ!新大陸のお土産楽しみにしてるよ。」


 王族の皆が励ますと、王子は目から涙が浮かび、頭を下げて感謝する。


「ありがとう、我は許されない事を沢山してきたのに、これ程家族の慈愛に恵まれているのは感謝すべき事だ。」

「それでは達者でな、マールム。」

「はい、行ってまいります、父上。」


 王子は船に乗り込み、そして王子が乗る船が出航した。

 国王一家は手を振り、王子は手を振り返した。


「嗚呼っ、俺はまだ愛されている、それだけが我の心の支えだ。」


 王子はこの時、総督の責務を全うする事を誓った………。

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