情景76【またたく間の影】

 朝の買い物を済ませて市場を出た。食材を詰めたレジ袋が軋んで音を立てている。

 気候はどんどん温暖になってきた。それなのに、日がな一日マスクをかけて歩くことが自分の習慣になりつつある。まだしばらくはこのままだろうか。このまま夏に突入するのは、素直につらいな。


 そんなことを思いながら駐車場に出たとき、空から音が降ってきた。

 頭上の空を瞬く間に横切る、ジェットエンジンの音。

 影が横切った。


 つられて見上げた先には、蒼空と白雲しかない。

 空の端で、指でつくった輪に収まりそうなくらいのそれが、ちょこんと浮かんでいただけだった。

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