情景73【雲上をゆく】

 飛行機で窓際の席を確保できたなら、雲に飛び込む瞬間は必ず外を見るようにしている。立っていたはずの地面は遥か遠く、地べたから空の高みへと突き抜けた先にある白雲の海は、もはや別世界だった。初めてそれを目にしたときから、その想いはずっと変わらない。その時の自分は、雲海の上を漂う不思議な存在だった。


 しばらくしてやや雲が晴れたあたりを通る。近くを流れる雲に虹の七色が乗っていた。さっきよりも太陽が近いのだろうか。まるでまばらに漂う雲が、自分の行く道を空けてくれるかのようだった——。


 まァそんなわけはないのだけれど、そんなことも思ってみたくなるのよね。

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