情景21【片隅に佇む店】

 この店は何屋さんで、何という名前にしようか。


 それだけのことに悩みながら、ここに店を構えてもう五年が経つ。とある町の片隅の、坂を上った住宅街の隅。この家屋そのものはそれ以前の何十年も前からここにあった。

 この家は高台の上から長い間、時代と共に移り変わっていく町並みをずっと見てきたようだ。駅から近いというわけでもなく、さりとて不便というわけでもない。自分の後に生まれた交通その他、周囲で揺れ動く環境など、どう変わろうとこの家には何も影響しなかった。


 ここだけ時が止まってしまったかのように、ここだけ全く違う空間であるかのように、永きに渡って静かにじっと佇んでいる。


 ただ、この家から望める光景は、私のような人間にとって、非常に心地がよく素晴らしい。それだけの場所だった。

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