第359話ネガティブ・アクティブ

 僕は怪しい影を見た。


 学校で授業をしているときも。


 通学路でも。


 休日に買い物をしているときも。


 僕の後ろに何者かの気配を感じる。


 さりげなく振り返ると、決まってサッと影が引っ込むんだ。


 曲がり角や人混みの中に消えていくその気配は、怪しさの塊でしかない。


 いったいどんな理由で僕を付け回しているのだろう?


 ある日僕は、放課後に人のいない場所に移動する。


 学校の裏手にある用具倉庫、その中に隠れて影の正体を突き止めようとした。


 しばらくすると扉が開いて、影の主が入ってくる。


 跳び箱の陰からそーっと覗き見ると、その人物は女子手芸部の君だった。


 手にはロープのようなものを持っているが……まさか、アレで僕の首を絞める気じゃないか……!?


 そんなことを思っていると、こちらに気付いた君が目を光らせて跳び掛かってくる。


 僕の上に馬乗りになると、そのロープのようなものでギリギリと首を絞めはじめた。


「……35センチ」


 そんなことを呟くと、君は立ち上がってロープを仕舞う。


 よく見るとそれはロープではなく、洋裁の巻尺だった。


 どうやら、僕の身体に合うセーターをつくっているらしい。


 君は怪しげな笑みを湛え「フフフ、待っててね」と呟いて去って行く。


 誰もいなくなった倉庫に倒れて、僕は一気に脱力した。


「フツウに言ってよ……」

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