第358話叫ぶ

 わたしは声を出す。


 おもいっきり叫んでみる。


 お腹の底から弾け飛ぶくらいに。


 自分の声を解き放つ。


 例えば音楽室で叫んでみる。


 反響した声が、耳に届いてキンキンする。


 例えば学校の屋上から叫んでみる。


 野球部が打ち返したボールの音に乗って、わたしの声が木霊する。


 例えば山に登って叫んでみる。


 遠くの山に反射して、自分の声が幾重にも重なる。


 例えば枕に顔をうずめて叫んでみる。


 これは案外、そとに声が漏れてしまった。


 例えば夢の中で叫んでみる。


 もう一度お腹の底から声を出して。


 あなたが好きだと叫んでみる。


 そうしたら目が覚めて、窓の外には朝日が射し込んでいた。


 ……わたしは叫んでみる。


 小さくてもいいから、心の声を、届けたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る