第356話向こうも、ドキドキしている

 今日は雨が降った。


 学校から帰ろうとすると、帰宅部のあなたが玄関でうろうろしながら外を見ていた。


 わたしは、何をしているんだろうと首を傾げる。


 近づいてみると、その様子からなんとなく状況を察することができた。


 どうやら傘を忘れたみたいだ。


 走って帰ればずぶ濡れになるし、この寒い冬の時期にそんなことはしないだろう。


 ちょうどいい。


 少しからかってみよう。


「傘、わすれたの?」


 わたしは何気なく声を掛けてみる。


 振り向いたあなたは、傘を持ったわたしを見て「助かった!」と言わんばかりに表情を明るくした。


 だからわたしはわざと言ってみる。


「走って帰れば?」と。


 降り続いていた雨は、いつの間にか雪に変わっていた。


 あなたはとても寒がりだから、「傘に……入れてください……」と言ってくる。


 なんか可哀そうに思えてきたので、「と、途中までなら」と言って帰り道を一緒に歩いた。


 肩を竦めながら二人で歩くのは、これが初めてかもしれない。


 あんまり意識したことがなかったけど、男子と距離が近いと、案外ドキドキする。

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