第345話千回分の一歩

 ガムを噛みながら、妄想を膨らませる。


 膨らませると、何者にでもなれる。


 普段の僕は、ただの高校生だけど。


 想像の中では生徒会長にだってなれる。


 ……いや、べつに会長になりたいわけじゃないけれど……。


 とりあえず空でも飛んでみようかな。


 ……でもありきたりな気がする……。


 超能力者とかになってみる?


 それだったら魔法使いのほうがトレンドじゃない?


 いっそ異世界にでも転生してみたら?


 なんでもありで無双もいいんじゃない?


 ヒロインに囲まれてハーレムを体験する?


 それよりも現実世界で女の子にモテてみるとか?


 ――そこでパンと。


 膨らませていたガムが破裂した。


 う~ん……。


 いろいろ想像の枝葉は広がるけれど。


 どんなに考えても、君との距離を縮める方法がわからない。


 千回妄想するよりも、一回声を掛けてみるところから始めればいいのにね。

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