第343話五秒前

 僕は時計の針の音を聴く。


 カチカチカチ……。


 部屋の中で寝そべって耳を澄ますと、妙に落ち着いて聴こえる。


 そしていつの間にか寝落ちする。


 いい夢が見れるといいな……。


 僕は時計の針の音を聴く。


 カチカチカチ……。


 テストの最中は、妙に張り詰めたように聴こえる。


 ピリっとした緊張感。


 空白の解答欄が、僕を追い詰める……。


 僕は時計の針の音を聴く。


 カチカチカチ……。


 高校駅伝のスタート数分前。


 白い息を吐きながら身体をあたためていると、マネージャーの君が親指を立てる。


 大丈夫! のサインだ。


 僕も親指を立てたあと、心臓に手を当ててリズムを聴く。


 ドクドクドク……。


 ハートの秒針に耳を傾け、僕はスタートラインで前を見据えた。

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