第342話なんでもない

 わたしはなんとなく歩く。


 特に理由はない。


 学校から帰って、やることがなかったので玄関を出た。


 ほんとうになんとなくだよ。


 外は寒いからマフラーとかあったかいアウターを装備して歩いた。


 正面から吹きつける風は、凍りそうなくらい冷たい。


 通学以外だと、買い物とか友達と遊びに行くときくらいしか外に出ないから、よけいに寒く感じる。


 しばらく歩きながら、なにかおもしろそうなものはないかと辺りを見渡してみる。


 ……特になにもない。


 そうだよね。


 そう簡単におもしろいことは起こらない。


 とりあえず公園にやってきたけど、けっこう静かだ。


 ここは自然が多くてマラソンコースとしても利用されているから、少しくらい人がいると思っていたけれど、寒さのせいか……人があまりいない。


 そこへ息を切らしながら走ってきたのは、陸上部のあなただった。


 よくここで練習をしているみたいなんだけど、暇だったら一緒に走るかと言われた。


 わたしがブンブンと首を横に振ると、「そっか」と笑いながら再び走っていった。


 そして翌日。


 相変わらずわたしはなにもやることがない。


 だからこそ昨日の公園に出掛けてみる。


 手にはストップウォッチとあったかい飲み物を用意して。


 特に理由はないけれど、わたしはあなたの練習に付き合ってみる。


 ほんとうになんでもない。


 なんでもない。


 そんな静かな公園での話。

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