第324話わたしも空を飛べそうです

 わたしは心が覗ける双眼鏡を手に入れた。


 これで覗いた対象の、心の内を知ることができる。


 わたしは以前より、気になっている男の子がいた。


 野鳥を観察するマニアックな部活に所属するあなただ。


 わたしも入部しよう。


 そして鳥を観察するフリをして、あなたを覗くことにしよう。


 この日から、わたしの観察ライフがはじまった。


 ……とはいったものの、退屈な日々が過ぎていった。


 あなたを覗いても、常に鳥のことばかりしか考えていない。


 異性の好みとか、気になる人のことなど、まるで頭に入っていないようだった。


 そんなとき、わたしとあなたはケガをした小鳥を見つけて拾い上げる。


 羽が治るまで互いに看病することになり、それからというもの、わたしは双眼鏡であなたを覗く機会が減っていった。


 それから一カ月が過ぎたある日。


 ケガが治った小鳥を、わたしたちは自然の中へとかえす。


 飛び立っていく小鳥に手を振りながら、わたしは名残惜しく双眼鏡を覗いた。


【案外キミのことが気になってるみたいだよ】


 そんなことを、小鳥が教えてくれた。


 心を覗いたからだ。


 わたしのいないところで、あなたは小鳥を看病しながら、いろいろと語り掛けていたのだ。


 双眼鏡を持ったまま、わたしは固まる。


「どうしたの?」


 と声をかけてくるあなたに、わたしはいつも通り双眼鏡を向けることができない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る