第311話繰り返し、読む

 僕は字を読むのが遅い。


 マンガにしろ小説にしろ。


 一つ一つの文字を拾い上げるようにして目を通す。


 早く読むこともできない。


 やろうとすれば文字がこぼれ落ちる。


 記憶の棚に入れることもできない。


 だからゆっくり、ゆっくり。


 晴れの日の散歩みたいな速度で。


 僕は文字に目を通す。


 ある日の放課後のことだ。


 学校から帰ろうと立ち上がると、君が僕のそばにやってきた。


 貸していたマンガを返してくれた。


 僕は本を受け取り、そのまま家に帰る。


 そしてなにげなくページをめくってみると、中から一枚の紙が落ちてきた。


 ハートの封がしてある手紙入れだった。


 しばらく思考が巡って。


 ハッとなったように顔が熱くなる。


 僕は文字を読むのが遅い。


 一つ一つを拾い上げるように、君の気持ちに目を通す。

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