第306話おかわりです

 ある朝目覚めると、わたしはネコになっていた。


 ベッドからもぞもぞと這い出て、鏡の前に立つ。


 くにゃっと曲がったしっぽに四つ足の立ち姿。


 間違いない。


 わたしはネコになっていた。


「どうしよう……」


 はじめはびっくりしたけど、悩んでもしょうがない。


 人間に戻る方法がわからなかったので、考えるのをやめた。


 ネコであるならば、ネコのうちにできることをしよう。


 そんな思いから、わたしは外へ飛び出す。


 普段見えない視点から世界を見てみる。


 ビジネス街に吸い込まれるサラリーマンたち。


 通学路に咲く学生のおしゃべり。


 見慣れた景色が、いつもと違った色合いになる。


 学校の昼休み。


 わたしは屋上を訪れた。


 あなたが毎日ここでお弁当を食べるのは知っている。


 ぽかぽか気持ちのいい日射しの下で、わたしはあなたの膝の上に乗った。


「みゃー」と鳴いたら、あなたはわたしの口に卵焼きを運んでくれた。


 甘くておいしい。


 おいしすぎて膝の上でゴロゴロしてたら、ポンと音を立てて人間に戻った。


 パジャマ姿のわたしを見て、あなたは言葉を失っている。


 わたしが狼狽していると、お弁当箱の唐揚げが目に入った。


 なにを言おうか迷ったあげく、とりあえず膝の上に頭を乗せたまま、わたしは言う。


「みゃー」

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