第301話偶然飲みたいやつが一緒なだけ

 僕はポケットに手を入れる。


 学校の中庭で一人。


 ベンチに座ってまったりする。


 ポケットの中はあたたかい。


 冷えた両手があたたまる。


 夕暮れ時の静かな校舎。


 西日が射してオレンジ色に染まる。


 寒さも徐々に増してきた。


 よけいポケットから手を出せない。


「なにしてるの?」


 女子バレー部の君が僕を見る。


 休憩ついでに飲み物を買いに来たらしい。


 この中庭の自販機は、君もよく利用する場所だ。


 だけど目的の商品が売り切れていた。


 残念そうにする君を見て、僕はポケットから手を出す。


 君が飲みたかったホットの紅茶。


 まだ空けてないからよければどうぞ。


 ポケットの外はやっぱり寒い。


 だけど君の「ありがとう」が、心にじんわりあたたかい。

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