第298話みみをすます

 わたしは音を聴いてみる。


 目を閉じて聴いてみる。


 放課後の教室に一人きり。


 じーっと耳をすましてみる。


 普段は通り過ぎていく音が、わたしの中に流れ込んでくる。


 窓からそよぐ風。


 部活に励む生徒。


 時を刻む中庭の時計台。


 わずかだけど、確かにそこに存在している。


 意識すると、それに気付く。


 わたしはそっと、目を開けた。


「…………」


 目の前にあなたがいた。


 わたしを驚かそうとして、無言でじーっと見ていたらしい。


 あなたと視線が交わり、再び目を閉じる。


 わたしは音を聴いてみる。


 今は他のなにより、心臓の音が一番大きい。

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