第297話これも、それも、ものの見方

 突然、雨が降りだした。


 学校の帰りのことだった。


 僕は傘を持っていない。


 灰色の雲から落ちてくる雨粒は、その勢いを増してアスファルトを叩いた。


 鞄を盾にして、雨から身体を守る。


 急ぎ足で、どこか屋根のあるところを探した。


 シャッターの閉まった商店を見つける。


 その軒下に向かって、すべり込むように逃げ込んだ。


 濡れてしまったシャツを指で摘まみながら、僕は空を見上げる。


 当分ここからは出られそうもない。


 早く帰って服を着替えたいのに、これでは風邪を引いてしまいそうだ。


「なにしてるの?」――そこに通りかかった女子水泳部の君。


 傘も差さずに平然と道を歩いている。


「風邪ひくよ」と忠告したら、シャツの下に水着を着ているから大丈夫とのこと。


 それって大丈夫なの?


 物事の見方でピンチはチャンスになるって言うけど……。


 君を見てると自分が雨宿りしてるのが、どうでもよく思えてくる。


 とりあえず一緒に帰ることになって、僕は軒下を出る。


 しかし、シャツの下に水着を着ていると言われると、逆にとなりを直視できなくて、困る。

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