第296話ドキドキしすぎて内容が頭に入ってこなかった

 わたしは行列に並んでいる。


 人気恋愛映画のチケットを買うためだ。


 思ったより人が混んでいておどろいた。


 こういうところに並ぶのは苦手だ。


 そしてまだ時間が掛かりそうだ。


 自分の番が回ってくるまで、わたしは想像力を働かすことにする。


 並んでいる時間を有効活用するすのだ。


 例えば、この場所に異世界のモンスターが現れたらどうだろう。


 映画どころじゃなくなって、人の列は蟻を散らしたようにバラバラになるはずだ。


 相手はモンスターだから、たぶん凶暴な見た目をしていると思う。


 中にはカワイイやつもいるだろうけど、いきなり現れるやつはきっとドラゴンみたいな見た目に違いない。


 勝手な偏見だけど。


 とりあえずそいつは口から火を吐いて、みんなをパニックに陥れるんだ。


 わわわ、なんて恐ろしいことを……!


 そんなことを考えていたら、わたしの番が回ってきた。


 券売機でチケットを買ったはいいが、ドラゴンを想像しすぎてファンタジー映画の券を買ってしまった。


 痛恨のミスだ。


 途方もなく白目を剥いていると、「あ、オレのとなりじゃん」と、同じクラスのあなたがチケットを覗き込んできた。


 え、となり?


 同じ映画なの?


 本来なら、間違ったチケットを払い戻すところだが、わたしは何食わぬ顔で入場口へ向かう。


 恋愛映画もいいが、たまにはこういうファンタジーも、ドキドキして、いい。

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