第294話けっきょくあなたの肩にもたれて寝息を立てる

 寒い季節になると恋人がほしくなるなんて誰が言ったのだろう。


 誰も言ってないのかもしれないけど、わたしは恋人なんてほしくない。


 なんというか、とくに理由はないけど、べつにどうでもいいように思う。


 それより今ほしいのは、別のものだ。


 あったかいもの。


 これにつきる。


「ぶるぶるぶる……」


 学校帰りのバスを待つ駅で。


 わたしは一人、北風に吹かれていた。


 上下の歯がカチカチと音を立てる。


 季節はまだ秋なのに、紅葉が散ってしまいそうな寒さだ。


 これもぜんぶ気まぐれな寒波の影響らしい。


 曇天を見上げながら、わたしはあったかいものを想像して気を紛らわせる。


 コタツ、セーター、ミルクティー……。


 ああ、なんだか眠くなってきた。


 バスが来るまでわたしはもつのだろうか?


「大丈夫か? これ使えよ」


 ふとやってきたあなたは、気まぐれでマフラーを渡してくる。


 とりあえず首に巻きつけると、なんとなく落ち着いてきた。


 あなたは隣に座って、わたしと同じバスを待つ。


 その時間がなんとなくもどかしい。


 寒い季節になると恋人がほしいなんて誰が言ったのだろう。


 その気持ちが少しわかりそうな自分にハッとして、わたしはマフラーの中に首をうずめた。

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