第276話そしてゆっくり目を開ける

 わたしは時間の中に閉じ込められた。


 ぐにゃぐにゃ歪んだ空間の中に、時計の針が右回り、左回り、バラバラに動いている。

 

 とても変な空間。

 

 ここは宇宙? 夢の中?


 わたしの身体まで歪んで、なんだかスパゲッティみたいになっちゃった。


 針金みたいにぐにょーんと伸びてしまって、わたしは混沌とした時間の海をさまよっている。


「おーい……おーい」


 そんなとき、遠くで誰かがわたしを呼んだ気がした。


 それはとても懐かしい声。


 記憶の隅で消えない、光のような、そんな声。


 それは手を伸ばせば届きそうな。


 近いようで遠いような。


 そんな声は、だんだんはっきりと、確かな輪郭を帯びてわたしのもとにやってくる。


「おーい……おーい……!」


 だからわたしは手を伸ばした。


 時計の針はピタっと静止したと同時、一気に同じ方向へと回りはじめる。


 高速で回転する時計の針。


 そして手を伸ばした先から徐々に真っ白な光へと染まっていく。


 そうだ、思い出した。


 この声はわたしをここから救い出してくれる。


 だからいくよ。


 一番大切なあなたのもとへ――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る