第274話のちに部屋の中はすごいことに……

 わたしにはマイブームがある。


 学校から帰ったら、部屋の窓を少し開けておくことだ。


 こうしておくと、いいにおいがそよ風にのって運ばれてくる。


 それを嗅ぎながら、頭の中でそれぞれの家庭の晩ご飯を想像する。


 夕方のにおいには特徴があり、それは季節に応じて異なってくる。


 春は天ぷら。


 夏はカレー。


 秋はシチュー。


 冬は鍋物。


 毎回同じというわけではないけれど、わたしの住んでいるところではこのパターンが多い。


 そして夏も終わり秋に入ったこの時期に、わたしの鼻孔をくすぐるのはシチューのにおいだった。


 クリームの甘いにおいを吸い込みながら目を閉じる。


 子供が食べやすいサイズに切った野菜や肉が、ゆっくり鍋の中で煮込まれている光景が浮かんでくる。


 何杯でもおかわりできそうないいにおい。


 そんな想像をしている最中、突然頭の中の映像が真っ暗になった。


 ガチャリと開いた部屋の扉から漂ってくる形容しがたいにおい。


「おまたせ~」


 と言いながら鍋を持ってきたのは同級生のあなただった。

 

 はぁ、現実逃避もこれまでか……。

 

 今からここで闇鍋パーティーが行われる。


 食べれるものが入っているとはいえ、あらゆるものが混ざった真っ黒な鍋は、混沌としたにおいが渦巻いていた。


「それでは、いただきます」


 二人は箸を口に運ぶ。


 しばらくシーンとした空気が漂ったが、思いのほか味がよくて変な気分。


 あなたはドヤ顔を決め込んでいるが、においだけはかなり終わっている。

 

 だから他の家庭のにおいを壊さないように、わたしはそっと窓を閉めたのだった。

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