第273話リセマラ

「あなたが落としたのは「性格のいい女の子」ですか? それとも「かわいい女の子」ですか?」


 君とハイキングに行ったときの話だ。


 僕はうっかり草原で足を滑らせてしまった。


 君は僕を助けようと腕を掴んだが、その反動で逆に君がバランスを崩し、目の前にある湖に落ちてしまった。


 心配しながら駆け寄ると、ブクブクと小さな気泡が浮かんできて、中から湖の女神が現れる。

 

 君を助けてくれたのはいいが、「性格のいい君」か「かわいい君」を選べとはどういうことだ。


 どこかのおとぎ話じゃあるまいし。


 もっと言うなら落としたわけでもないけれど。


 試しに「両方……?」と答えてみる。


 すると女神は二人の君を置いたまま、水面の底へと消えていった。


「…………」


 僕は「性格のいい君」と「かわいい君」の間で困惑する。


 どちらとも君なのだろうが、僕の知ってる君じゃない。


 一旦、気持ちを落ち着かせるためにお弁当タイムにしようと提案したが、ここで事件が起こる。


「性格のいい君」が蟻にクッキーの欠片をあげようとしたら、「かわいい君」がそれを踏みつぶそうとした。


 両者の間で蟻を巡る争いが起き、それを止めようとした僕は突き飛ばされ湖の中へ落ちていった……。


 ――しばらくして目が覚めると、目の前にはいつもの君がいた。


 僕は周囲を見渡して気付く。


 さっきのは夢だったのかと、胸を撫で下ろした。


「夢じゃないわよ」


 そう言う君の後ろから、「性格のいい君」と「かわいい君」が現れる。


 そして草原の向こうから「お金持ちの僕」と「天才の僕」が走ってきた。


 君は薄く笑って答える。


「次はどんなあなたに出会えるのかしら?」


 突き飛ばされた僕は、グラリとバランスを崩す。


 そしてまた、湖の底へと沈んでいった――。

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