第272話むりに言わなくても大丈夫

 考えてもなにも出てこないときはどうすればいいか?


 わたしはそんなことを考えている。


 教室の窓から外を眺めて、ここ一時間くらいずっと考えている。


 答えを出さないといけないときにかぎって、答えは出てこない。


 解答を求められているのに、適切な言葉が出てこない。


 こんなとき、なんとかして答えたい。


 いい方法はないか、ずっと考えている。


「…………」


 でもいい答えが出ることはなかった。


 そんなとき、グラウンドの向こうで野球部がボールを打つ音が聴こえた。


 カキーンと爽快な金属音だ。


 わたしの頭にも、あれくらい爽快な閃きがほしい。


 答えを求められたときに、カキーンと言葉をかっとばしたい。


 ホームラン級の爽快感を叩き込みたい。


 でも、現実はそうじゃない。


 ぐちゃぐちゃした頭の中がまとまらない。


 なにが言いたいのか自分でもわからない。


 わからなくなって、なにも出ない。


 モヤっとした気持ちだけが残る。


 なんかイヤだし、なんとかしたい。


「…………」


 考えてもなにも出てこないときはどうすればいいか?


 けっきょく何もわからなかった。


 だからわたしはあきらめて帰る。


 鞄を手にしたとき、教室の出口にあなたがいた。


 告白の返事を聞かせてほしいという。


 考えたけど、いい言葉は見つからなかった。

 

 だからあきらめる。


 あきらめて、あなたの手を、そっと、握った。

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