第269話使い損ねたスプレーが、ここで役に立ったぜ!

「た、たすけて~!」


 そう言いながら君は、僕の家にやってきた。


 残り少ない夏休みをのんびり過ごしていたというのに、一体どうしたの?


 話を聞いてみると、部屋にゴ○ブリが出たのだという。


 触るのがコワイから退治してほしいのだとか。


 とはいえ、家が近所だからといって僕の家まで来るかよフツウ……。


 とにかく君の家は他に誰もいないようなので、仕方なく僕がゴキ○リを退治することになった。


 やれやれ……。


 君の部屋に到着するなり、僕は手に殺虫スプレーを構える。


 女の子らしいフワフワした印象の部屋で、なんか甘くてイイ香りがしていた。


 そして壁のところに黒い物体を発見して、瞬時に視線を上げてみる。


 するとそこにはゴキブ○ではない、別の生き物が貼り付いていた。


「クワガタじゃねーかッ!」


 しかも立派なアゴを持つ大型のミヤマクワガタだ。


 君は窓を開けていたら入ってきたと言うが、虫に詳しくないから○キブリと思ってしまったのだろう。


 いや、それにしてもヒドい間違いだ……。


 このサイズは結構貴重だぞ。

 

 売れば高い値段がつくだろうが、しかし僕たちはお金に替えなかった。


 近くの山に行って、木の幹にクワガタを解き放つ。


 いずれ子孫に会えることを願いながら、僕たちは夕日を背に山を下りた。


 家に着くころ、君がジュースをご馳走してくれるというので部屋に上がる。


 そしたらカブト虫がいると言うので、ウキウキしながら台所に行ってみた。


 なるほど。


 確かに立派な身体をしている。


 僕の眼前にいるのは、紛れもないゴキブリだった。

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