第259話ハレーション・ワールド

 ある日、窓を開けたら真っ白な世界が広がっていた。


 ハレーションを起こした光の空間は、地平の果てまで続いており、足を踏み外したら奈落の底まで落ちてしまいそうだ。


 一体なぜこんなことになってしまったのだろう?


 原因はわからないが、しばらくすると僕の周囲だけが少しずつ形を帯びていった。


 どうやら記憶に残っている部分だけ元の姿を取り戻すようだ。


 近所の公園や学校、クラスの友達や先生。

 

 身近な人や物の形は、数日のうちに元通りになっていった。


 ただ、一つだけはっきりしないものがある。

 

 教室に置かれた一つの机。


 ここに座っていた人物が誰なのかが、思い出せない。


 一つ確かなのは、この席の人物が女の子だったということ。


 その先を思い出そうとしたら、頭が痛くなって思い出せなかった。


 なにかショックな出来事があったような気がする。


 どうも落ち着かない。


 結局思い出せないまま数日が経過していき、街や近所には未だに空白になった場所が点在していた。


 そんな日が続いたある日、僕の元に一通の手紙が届く。


 そして、この手紙をきっかけにすべての記憶がよみがえることになった。


「君だったのか……」


 手紙の主は空席の女の子。


 仲のよかった君だ。


 遠くに引っ越すことが決まってお別れしたまではよかったのだが、僕はどうも君の事を友達以上に想っていたらしい。


 いなくなってからそのことに気付き、僕は無意識に世界から逃げていたようだ。


 ――手紙を閉じたあと、虫食いだった世界は徐々に色を取り戻していく。


 僕は雲一つない空を見上げて、ゆっくりと机に向き直った。


 さてと。


 君への返事を書かないとな。

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