第258話マネージャーになるためには、まず「部」が必要

 わたしはバレー同好会のメンバーだ。


 といってもこの学校でメンバーはわたし一人だけ。


 しかもマネージャー志望だ。


 今日もボールを片手に体育館の通路でトスの練習。


 なんとか部員を集めるため、日々、いろんな方法を考える。


 ――と、そんなところに現れたのがあなただ。


 文芸部に所属するあなたは、メモを片手にこう言った。


「取材をさせてほしい」と。


 詳しく聞いてみると、文芸部で提出する短編小説の題材が「バレー」なのだという。


 しかしあなたはバレーをやったことがないため、文章が浮かばなくて困っているのだとか。

 

 取材すれば文字が浮かぶかもしれない。

 

 力になれるかわからないが、この日からあなたはわたしの「一人バレー」を観察することになった。


 ――体育館の通路で、男子が女子のバレーを見続けるシュールな光景。


 これが数日間続いた。


 でもあなたの筆は進まない。


 そこでわたしはボールを渡してみる。


 自分で体験してみることを勧めたのだ。


 はじめは乗り気になれないあなただったが、これが意外と筋がいい。


 バレーの才能を発揮したあなたは、その後、小説を書き上げることができた。


 そしてなんと、一カ月後には文芸部と掛け持ちで同好会のメンバーとなったのだ。


 ――さて。


 ここで一つネタバレしないといけない。


 実は今回の出来事は、すべて仕組まれたことだった。


 わたしはあらかじめ色んな部活に根回しをしていた。


 例えば文芸部の部長には、小説のテーマを「バレー」にするよう伝えておいた。


 あなたが取材に来ることを見越して、自然な流れでバレーを体験させた。


 上手いこと持ち上げて同好会に入ってもらう戦略は、成功した。


 ちなみにまだ種は撒いてある。


 今日も書道部の男子がやってきてこんなことを言った。


「あの~リベロという文字が――」

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