第257話ドラゴンエンブレムファンタジー7 ~典型の花嫁~

 僕は典型的な勇者だ。


 典型的なお姫様の君は、典型的な魔王に攫われて、世界は典型的な混乱に陥る。


 典型的な丘に刺さった典型的な伝説の剣を抜いて、僕は典型的な世界を救う旅に出た。


 そこでふと思う。


 こんな起伏のない人生でいいのかと。


 きっと僕はなんだかんだで魔王を倒して、君と結ばれるという典型的なハッピーエンドを迎えるんだ。


 敷かれたレールの人生なんてまっぴらだ。


 僕は剣を捨てて旅をやめた。


 誰も知らない辺境で、ひっそり暮らそう。


 誰にも邪魔されず、誰にも出会うことなく――。


 

 それから十年の時が流れた。


 勇者は姿を消し、世界は破滅を迎えると誰もが思った。


 ところが奇妙なことが起こった。


 魔王は誰かに倒され、世界は平和になる。


 それどころか、勇者が捨てた伝説の剣は、何者かの手に渡ったという噂が流れた。



 そんなある日、辺境の地に一人の「勇者」が現れる。


 それは伝説の剣を拾った元・姫の「君」だった。


 僕が助けに行かないから、痺れを切らして自分の手で魔王を倒してしまった。


 それどころか国に帰ってきて、落ちていた剣を拾ってしまう。


 勇者に選ばれた君は、辺境の地で魔王になるための研究をしていた僕を見つけ、斬りつけた。


 勇者の務めは魔王を倒すことだ。


 そんな典型的なお約束に、僕は孤独な人生を終える。


 でも、谷底に落ちる瞬間に思う。


 

 僕は自分の信念という剣を貫いた。


 その十年の輝きに一切の後悔はない――と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る