第255話二人のメリット

 身体が二つあったらいいなと思う。


 学校に行きながら、僕はそんなことを考えていた。


 なぜなら日常の役割を分担できるからだ。


 一人が学校に行っている間、もう一人の僕は家で寝ることができる。


 面倒くさいことは片方に任せて、僕は毎日遊ぶことだって可能だ。


 そんな夢みたいな妄想を膨らませた次の日、ベッドの中にもう一人の自分がいた。


「…………」


 顔を見合わせて、触ってみて、互いに話す。


 どうやら本当に二つになったようだ。


 驚きを通り越して逆に冷静になった僕は、さっそく実験を開始する。


 今日から交代で学校に行くことにした。


 みんなや先生にバレないか心配だ。


 ドキドキしながら僕たちは日々を過ごす。

 

 でも、実験は成功した。


 誰にもバレずに僕たちは生活を送ることができた。


 数学も体育も芸術も。


 苦手な教科や体調が悪いときは、交代しながら負担を半分にする。


 休みの日が二倍になり、二人になってよかったと歓喜した。


 ――だが、ある日問題が発生する。


 互いが同じ人を好きになってしまった。


 相手は女子テニス部の君だ。


 もちろん君は分身なんてできない。

 

 僕たちは悩んだ。

 

 昨日までの仲間が今日から敵になる。


 こればかりは考えてもはじまらない。


 わかりやすく勝敗を決するため、僕たちは二人同時に告白することにした。


「ごめんなさい」


 ――そして二人同時にフラれた。


 そうだ、どちらか片方が付き合える保証はどこにもない。


 どちらもフラれる可能性だってあるわけだ。


 僕たちは落ち込んだまま家に帰る。


 そして語り合い、失恋の悲しみを半分こした。


 予想以上に失恋はつらい。


 今度同じ人を好きになったら、僕は四人くらいに増えてるような気がして、少しビビる。

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