第249話一人部屋への引っ越し

 僕は記憶喪失になって公園をさまよっていた。


 ベンチに座ったままぼんやりとした頭を押さえて、ふと正面を見る。


 すると見覚えのある女性が立っていた。


 僕はハッとする。


 確かこの人は大切なパートナーだ。


 君の肩を掴んで、そっと詰め寄る。


 すると驚いたように小さな悲鳴を上げたので、僕は「驚かせてごめん」と謝った。


 君に記憶喪失になったことを打ち明けると、とても戸惑っていた。


 が、君は迷ったあげく僕をある場所に案内してくれる。


 そこは高級そうなマンションだった。


 ポケットに入っていた鍵を使って入ると、ずいぶんと広くて綺麗な部屋が広がっていた。


 そうだ……。


 僕と君は大学に通っていた。


 確か犯罪心理学を学んでいたと思う。


 現に本棚にはその類の本がたくさんあった。


 そしてここは僕たちが同居……していた場所だ。


 でも、大学生が払える家賃じゃないぞ。


 バイトなんてしてたっけ……?


 頭の中がグチャグチャになりながらも、僕は次の日から大学に通い始めていた。


 しかし記憶は戻らず、時間が過ぎた。


 君はなぜか黙ったまま大学に行かない。


 そんなある日、部屋でぼんやりテレビを観ているとニュースが流れた。


 大学生の女性が行方不明になっているという。


 僕はハッとなった。


 すぐさま君を連れてとある山中にやってくる。

 

 そして、土の下にあるものが埋まっていた。


 ――君だった。


「ごめんよ……」


 僕は膝を突いて謝る。


 ここでようやくすべての記憶が戻った。


 そう、僕たちは詐欺を働いて大量の現金を手に入れたんだ。


 ところが君が手柄を独り占めしようとして、僕を殺そうとした。


 揉み合いになった結果、ふとしたはずみで君が死んでしまった。


 僕は君をここへ埋め、現金を持ち帰って生活していた。


 しかしパートナーを殺めたショックから記憶を失っていたようだ。


「…………」


 翌日警察に自首した僕は、以前より狭い部屋で日々を過ごす。


 となりを見ると、ただ静かにこちらを見ている君の姿がはっきりと見える。


 これは幻覚なのか、もしくは幽霊か?


 とにかくここでの生活は長くなると思うけど、そんな僕に君は最後まで付き合ってくれるらしい。

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