第248話ファイナル・ディスタンス
新型ウイルスの影響で映画館の風景は変わった。
マスク着用やアルコール消毒など、座席の間隔に至るまで、こんなふうになるなんて想像もしていなかった。
わたしは映画が好きなので、今日も一人分のチケットを購入する。
よく「友達と行かないの?」と聞かれるけど、映画の内容に集中するにはこのほうがいい。
館内は両側と前後の席が空いているから、皮肉にも広い空間で映像を楽しめる。
人にもよるだろうが、わたしにとっては小さなVIP席みたいで最高。
「あ、となり失礼します」
だからそんな声が聞こえたときにはかなり驚いた。
わざわざ張り紙をしているにも拘わらず、男の子が隣に座った。
いや、というより人じゃなかった。
幽霊だった。
「…………」
聞くところによるとあなたは生霊だという。
数カ月前、彼女と映画に行く予定だったが、新型ウイルスの影響でデートがキャンセルになり、彼女と仲が悪くなったようだ。
そのときの負のオーラがあなたを生んだらしい。
そんなあなたは度々この館内に現れていたらしい。
そこで常連のわたしが気になったというのだ。
最初はびっくりしたけど、話してみるとフツウな感じでいい人っぽい。
さらに話を続けると、どうやらあなたは映画に詳しいようだ。
おお、わたしと趣味が合う。
それからというもの、わたしたちはこの映画館で会うことが増えた。
時間が経つにつれて、二人はいつの間にか友達になっていた。
でも、そんな日常はある日突然終わりを告げる。
ふと、あなたは消えてしまった。
理由は単純だ。
あなたの本体と彼女が、仲直りをしたからだ。
わたしは映画館の前に立ち、ぼーっと思い出す。
あなたと最後に観た映画は、どうしようもなくベタな恋愛映画だった。
主人公が恋人と結ばれる系の、ハッピーなやつ。
わたしはそんなフィクションが好きだった。
――そして。
あれからさらに数日が経過した。
今も映画を観るときは、無意識にとなりの座席を確認するクセが残っている。
あなたと過ごした日がフィクションのように思えてきて。
頭の中であの日の想い出と距離を置く――。
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