第246話告白の練習

「わたしは前からあなたのことが――」


 部屋にこもり、わたしは告白の練習をしている。


 相手は同じクラスの男子生徒――美化委員のあなただ。


 以前より胸に秘めていたことを伝えたい。


 が、いざ言葉にしようとすると上手くいかないものだ。


 だからこうして枕に向かって練習しているが、どうも感情が入りにくい。


「おはよう!」


 次の日、あなたは爽やかに挨拶をしてきた。


 白い歯に整った眉毛。


 端整な顔つきは美化委員を擬人化したようなルックス。


 毎日積極的な挨拶をしてくれるわけだし、これは告白するチャンスかもしれない。


「あ、あの――」


 わたしは思っていることを伝えようとする。


 でも、どうも上手くいかない。


 言いたいことが喉の奥でつっかえる。


 感情が表現できない。


「どうしたの?」


 そんなわたしを見て、あなたは首を傾げた。


 状況を察してくれたのか、顔を覗き込むような仕草をしてくる。


 距離が近い。


 心臓がドキドキしている。


 やばい。


「あ、あのさ――」


 どうしよう。


「実は、わ、わたし――」


 気持ちが入ったせいか、口が動く。


 いけるかも。


 わたしはついに――


「あなたのことがキライです」


 言いたいことを告白できた。


 というのも単純な話だ。


 あなたはわたしのタイプじゃない。


 あなたはわたしのことが好きみたいだけど。


 そのせいか毎日わたしに対するアピールを欠かさない。


 こちらがさり気なく距離をとっていることにも気づかずに。


 はぁ……。


 そんなわけで、あなたにわかるように説明する術を模索していた。


 結局は小手先の話術より一撃の感情が効果的だったみたいだけど。


 あなたにも気持ちは伝わったようで、それ以降のアピールはなかった。


 次に告白するときには、本命がいることを願う。

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