第244話夏の終わりの鬼ごっこ

 8月も終わりが近づいている。


 今年の夏を振り返ったとき、思い出すのはいつもと違った街の風景。


 三日月が昇る真夜中、わたしとあなたは深夜の街に繰り出していた――。


「鬼ごっこがしたい?」


 遡ること数日前。


 わたしの提案にあなたは訝しい表情を見せた。


 早めの夏休みが終わり、少し早い新学期が始まる。


 最近あんまり外に出ていなかったせいか、わたしは身体を動かしたい衝動に突き動かされていた。


 とはいえ外出自粛のご時世だ。


 人の多いところに行くわけにもいかない。


 だから人のいないところで鬼ごっこをやろうと提案した。


 メンバーはわたしとあなたの二人。


 必要最低限の人数だ。


 あなたは「バカかよ……」と呆れた様子ながらも結局わたしに付き合ってくれる。


 けれどこれを深夜の街中でやると知ったあなたは、さすがに後悔しているようだった。


「自粛以前に時間がアウトだろ」


 とストレートなツッコみが飛ぶ。


 おまわりさんが来たら一発アウトだ。


 それでもわたしは変なところで駄々をこねる。


 そして無理矢理に鬼ごっこを決行してしまった。

 

 わたしは鬼になったあなたから逃げる。


 マスクをした状態でとにかく夜の街を走る。


 まばらな街明かりとシャッター街の静けさが妙に記憶に残った。


 いつも賑やかな風景が嘘のようだ。


 気付いたら走ることをやめて周りの景色を眺めていた。


 なんか違う世界にいるような感覚だった。


 そんなわたしの肩をあなたが叩く。


 しまった、捕まった。


「じゃあ、鬼交代ね」


 そう言って振り返ると、あなたじゃなくておまわりさんがいた。


 結局、いくつか質問されたあとに親が迎えにきたのだが、帰宅後の親の顔は鬼が自粛するレベルで怖かった……。

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