第243話熱中症の女神様

「わたしは夏の女神です。わたしと勝負しましょう」


 学校の帰り道で女の子からそんなことを言われた。


 え、どういうこと?


 最近マンガの読みすぎで夢でも見てるんじゃないかと思った。


 僕は目を丸くしてもう一度聞く。


 しかし君は自分を女神だと言い張った。


 マジで?


 どうやら我慢比べをして君に勝てたらなんでも言うことをきいてくれるらしい。


 ん? 今何でもするって言ったよね?


 そのかわり僕が負けたら君の言うことをきく羽目になるらしい。


 ホントに?

 

 僕はなんとなく申し出を受け入れ、勝負が始まった。


 が、それは一瞬で終わる。


 君は不思議な力で周囲の気温を一気に上げた。


 暑い……!


 僕は三秒ももたずにギブアップする。


 本当に神様なの?


 この力を見る限りトリックには思えない。


 それに勝負に負けた僕はどうなるの?


 不安になる僕をよそに、しかし君の願いは意外なものだった。


 それは「暑さを感じたい」というもの。


 夏の女神は暑さの耐性が強すぎて「熱」の感覚がわからないのだという。


 とはいえ僕は普通の人間だ。


 不思議な力は使えない。


 その願いを叶えることができるだろうか?


「……あ」


 そこで僕はある方法を思いつく。


 最近読んだマンガの中から、特にアツい展開のものを君に勧めてみる。


 そしたら夢中でページをめくる女神様。


 身体ではなくとも心に熱さを感じることならできるハズだ。


 その予想は的中して、君は願いが叶ったと喜んでいた。


 こうして僕と君との不思議な夏は終わった――。


 と思っていたら君はもっとおもしろいやつが読みたいと駄々をこねる。


 あまりに熱心に読むものだから、この街だけ平均気温が高い。


 ある意味、これも熱中症だ。


 このままだと秋の到来が遅れそうなので、明日あたりから最高のホラーマンガを勧めたいと思う。

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