第241話潔癖のボーダーライン

 君はとてもきれい好きだ。


 学校でも家でも身の回りはきれいにしないと気が済まないらしい。


 潔癖症とでもいうべきだろうか。


 自分の机をアルコールで消毒しないと絶対に座らない徹底ぶり。


 まぁ、潔癖であることは悪ではない。


 個人の自由。


 程度の問題といったところか。


 そんな君と僕が付き合うことになった。


 理由は単純だ。


 なんとなく僕が清潔そうに見えたらしい。


 そんな理由で付き合うという基準が独特だ。


 君は僕が付き合ってきた女性の中で初めて見るタイプだと思う。


 特に意識したことはなかったが、真剣に告白されたときには正直ドキッとした。


 この人と一緒になりたいと、そう思わせてしまうなにかを感じる。


 僕は直感に従い、「よろしく」と頷いた。


 時間が経つにつれ、君のことがだんだんわかってきた。


 自宅に遊びに行ったときなんか衝撃で、家全体が真っ白な宮殿みたいだった。


 部屋も広いし、空気まで高原の花畑みたいに澄んでいた。


 対して僕の部屋は汚い。


 ジュースの空き缶やお菓子の袋がそこらへんに落ちている。


 だから君が来たときには目の色を変えて怒られた。


 怒涛の勢いで部屋を片付けたあと、君は疲れた様子で帰っていく。


 そのとき部屋のアルバムがなくなっていることに、僕はまだ気付くことができなかった……。


 それから数日後。


 ニュースで奇妙な事件が報じられる。


 女子高生の死体が数名発見されたのだが、どの子もきれいに化粧され、眠るように死んでいた。


 僕は戦慄する。


 全員元カノだったからだ。


 そういえば君は潔癖なほどに純潔を重んじる性格だと言っていた。


 僕の過去まで殺菌するなんて。


 愛情の消毒液など、もはや劇薬という愛憎にすぎない。

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