第240話影踏みゲームと賭けの行方

 あなたがわたしに気があることは知っている。


 だけどなかなか「好きだ」の一言を口にしない。


 こっちから告ってやろうと思ったけど、せっかくの機会を奪うのもよくない気がした。


 二カ月くらい待ってみたが、相変わらず告白してくる気配はない。


 ……じれったい。


 よし、決めた。


 わたしは学校が終わると、とある目的であなたを連れ出してみる。


「わたしと賭けをしましょう」


 そう切り出すとあなたは戸惑った表情を見せた。


 はたして賭けとは?


 その内容はいたってシンプルだ。


 学校からわたしの家まで影を踏んで帰宅すること。


 移動はジャンプのみ。


 わたしとあなたが交互に飛んで、途中で影を踏み損ねたら負け。


 そして日が暮れるまでに目的地まで辿り着けなかったら、あなたの勝ち。


 辿り着いたらわたしの勝ち。


 二人とも辿り着いたら……わたしの勝ちだ。


「それ、ズルくね?」


 あなたの一言を掻き消すように「わたしが勝ったらちゃんと言いなさいよ」とセリフを被せてやった。


「それ俺が勝つメリットあんの……?」


 ……そんな言葉も無視して、勝負は始まる。


 が、移動がジャンプだけで影を踏むのはけっこうキツかった。


 しかもスポーツ部のあなたに対し、帰宅部一筋のわたしが脚力で敵うハズがない。


 それでも夕日が沈む直前には、自宅の前まで辿り着くことができた。


 まずい、早くしないと負ける!


「だぁーーっ!」


 明らかに無理のあるジャンプでわたしは翔ぶ。


 距離が足りずにバランスを崩すが、しかし着地した場所にあなたが立っていて身体を受け止められた。


 わたしが転ぶと思って咄嗟に影から飛び出したらしい。


「……俺の負けだな」


 そう呟くあなたはまだ口籠っている。


 早く告れと思いながらも、せめて夕日が沈むまでは、このままでいたい。

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