第238話ガラスに囲まれたこの街で、わたしは空のように透き通る

 ある日、街から人が消えた。


 公園も団地も道路も。


 コンビニも八百屋もショッピングモールも。


 人がいるべきところに人がいない。


 まるで煙のようにフッと消えてしまった。


「おい! 無事だったのか!?」


 だからわたしに声を掛けてきた瞬間に気付くことができた。


 心配して駆け寄ってきたのは同じ学校に通うあなただ。


 男子陸上部のエースとして期待されているだけでなく、背が高くてルックスもいい。


 女子からの人気も高いあなたと誰もいない街で二人きり。


 この奇妙な状況に、不謹慎かもしれないけどわたしの胸はときめいていた。


 時間が経つにつれ、いくつかわかったことがある。


 この街は完全に隔離されているということだ。


 隣町へ行こうとしたら、透明なガラスのような壁にぶち当たって先に進めない。


 住民は消えたけどわたしたちだけは存在する。


 そして幸いなことに、食べ物や飲み物はそのまま残されていた。


 わたしたちはひとまず街に残された物資で飢えを凌ぎ、この事態を乗り切ることにした。


 正直なところあなたとの生活は楽しかった。


 誰もいないショッピングモールで服を選んだり、誰もいない銭湯を貸し切ったり、誰もいない公園でテントを張って星を観たり、全部かけがえのない想い出になった。


 しかし終わりはやってくる。


 なぜならこの状況を生んだ原因がわたしだからだ。


 あなたと二人きりになりたいと願ったせいで、街から人がいなくなった。


 あなたにはすでに好きな人がいる。


 それが頭をよぎった時、魔法は解けてあなたは好きな人のもとへと駆けて行った。


 ――あれから街は賑やかになったけど、その中でわたしだけが透き通ったガラスの色をしている。

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