第235話輪っかが描かれた謎のTシャツの謎

 僕はこの夏Tシャツを買った。


 とはいえ変わったデザインだ。


 白地に赤色の輪っかが描かれているだけだ。


「ダサいね」


 そう指摘したのは手芸部の君だった。


「わたしだったらもっとセンスあるやつ作るよ」


 と勝ち誇ったように腕を組む。


 ちなみに君はドジっぽく、いつも指先に血豆を作るようなキャラだ。


 手先が器用とは思えない。


 とにかく僕はTシャツを着てみた。


 君は「サーカスのリングみたい」と言って輪っかの中に頭を突っ込む。


 本人は冗談のつもりだが、まさか頭が僕の背中から出てきた。


「え、なにコレ……?」


 身体を貫通するTシャツに僕たちはしばらく言葉を失う……。


 ――それから数日後。


 このTシャツについて色んなことが判明した。


 あの輪っかを潜ると「前向きな気持ち」になれるらしい。


 君は手芸部でドジを繰り返し、その度に僕のTシャツを潜って気持ちを持ち直した。


 そんなある日、君は死にそうなくらい落ち込んで電話を掛けてくる。


 干していたTシャツを慌てて着た僕は、いつも通り君に潜ってもらう予定だった。


 しかし前後を間違えて着ていたため、君はあり得ないくらい落ち込んでしまった。

 

 どうやら背中から潜ると、「後ろ向きな気持ち」になるらしい。

 

 しかも不運なことに、着直そうと脱いだ瞬間に、Tシャツが窓から入ってきたネコによって奪われていった……。


 僕は君に問う。

 

 なんで落ち込んでいるのかと。

 

 聞くと君は手芸部でTシャツを作っていたという。


 僕にプレゼントするものだったらしく、柄はオリジナルだ。


 鞄から出したそれを受け取り、僕は試着してみる。


 君は「ダサいね」というが、僕は「なんだか前向きになるよ」と答える。


「センスあるじゃん」とからかうと、君は輪っかのないTシャツに顔を埋めて、しばらく泣いていた。

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