第232話絡めとられた夏の想い出
「綿あめって蜘蛛の糸からできてるんだって」
――あなたはいたずらっぽく笑ってそんなことを言った。
幼かったわたしはそんなことも知らずに、ある日、蜘蛛の巣を割り箸で絡めとって舐めてみる。
でも、味がしない。
その光景をあなたに見られてドン引きされた思い出は、高校生になった今でも覚えている。
こうして夏を迎えると、毎回話題にあがるのだ。
「あのさ、今度の祭り一緒に行かない?」
そう告げられたのは、八月の終わりのことだった。
あなたには珍しく、少し緊張した様子だった。
この町では毎年「蜘蛛神」と呼ばれる神様を祀るお祭りがある。
昔、村の人を食べていた蜘蛛を鎮めるために始まった生贄の儀式が、いつしか祭りとして現代に残ったのだとか。
学校じゃあ好きな人に告白するイベントとして定着してるけど。
こんなふうに誘いを受けると思ってなかったから、わたしは目を合わせないで小さく頷いた。
――そして祭りの当日。
たくさんの屋台が並ぶ石畳。
わたしたちは浴衣姿で歩いていた。
そこであなたはわたしの手をとり、急に林の中へと誘い込む。
屋台の灯りが届かなくなったところで、あなたは「付き合ってくれ」と言った。
わたしは目頭を拭って「いいよ」と頷く。
どちらからともなく唇を重ねるのだが、あなたは蜘蛛の糸に巻かれて繭のようになった。
それはぜんぶわたしのせいだ。
だってわたしが蜘蛛神の末裔だから。
人間を攫わないと子孫が残せない。
だからあなたを持って帰る。
心配しないで、繭の中でも息はできるから。
杉の木に巻かれて綿あめみたいになったあなたはとても美味しそう。
夜の帳へ見送るように、遠くでお囃子が鳴り響いていた――。
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