第231話眠り姫になった君と、1000人の王子

 君が昏睡状態に陥った。


 原因は新種のキノコを食べてしまったからだ。


 しかも異性がキスをすると目覚めるらしい。


 そんなおとぎ話みたいなキノコどこに生えてたんだよ……。


 しかしこの出来事は学校であっという間に噂になった。


 何せ君は女子の中でもアイドル的存在だ。


 文武両道、才色兼備。


 この世の全てを手に入れたような君と唇を交わすため、学校中の男子が王子様の名乗りを上げる。


 しかしここで問題が発生した。


 君の寝相はあまりにも悪い。


 集まった男子は近づくことすらできなかった。


 瞬発力や力技を駆使しようとしても、武道を極めた君に敵う者はいない。


 僕も挑戦する予定だったけど、その光景を見て諦めた。


 凡人の僕には指先すら触れることができないと思ったからだ。


 その日の夜。


 僕は枕を抱きながら涙を流す。


 実は君のことが好きだったからだ。


 だけど凡人の僕じゃあ、君に好かれるなんて100%無理だ。


 なにもかもが違いすぎる。


 もう君のことは忘れよう。


 そして僕は眠りについた……。


 翌日。


 僕は夢の中で見たアイデアを試してみる。


 それは君の横で「ただ寝る」というものだ。


 眠るときに必要なのは寝具。


 つまり僕が抱き枕になればいいのではないか?


 一縷の望みを託して横になる。


 君は寝言を言いながら僕にしがみつき、顔が触れるところまで迫った。


 よし!


 ここぞとばかりに僕は唇を意識したのだが、そこで君が大きく伸びをする。


「あ~……よく寝た」


 普段の疲れを癒した君は、なにごともなかったようにどこかへ行ってしまった。


 茫然と口を開ける僕。


「そ、そんな……」


 結局全ては夢のように消えた。


 ――その日の夜。


 僕は再び枕を濡らす。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る