第230話夏とアイスと野球とわたし

 夏の青空にカキーンと爽快な金属音が響いた。


 野球部のマネージャーをしているわたしは、今日も麦茶の入ったクーラーボックスを部員のもとへと運ぶ。


 みんなは汗だくで練習に励んでいるが、その中で落ち込んでいるヤツが一人。


 ピッチャーを務めるあなただった。


「はぁ……」


 重いため息の原因は上手く投げれないことにあった。


 毎日地味な練習を積んできたおかげで、それなりに試合に出る機会も増えた。


 しかし対戦相手も練習を積んでいるわけで、ここぞというときに打たれるシーンが多く見られるようになる。


 練習のやり方が悪いのか? 自分に才能がないのか?


 あなたは自問自答を繰り返しながら、思考の迷宮に嵌まり込んでしまった。


「……アイス、食べる?」


 相談に乗っていたわたしは駄菓子屋にあなたを誘う。


 小さなベンチに腰を下ろして、二人でアイスを食べた。


 差し出されたアイスの棒を持って、あなたは何気ない疑問を口にする。


「この棒、なんで斜めなんだ?」


 ものによっては、アイスに刺さった棒が斜めになっているものがある。


「ああ、添加物が入ってないアイスは溶けたときにストンと落ちるから、棒を斜めにすることで落下を遅らせるんだって」


 駄菓子屋のおばちゃんから聞いたことを言うと、あなたは「へぇ~」と感心したように棒を眺めていた。

 

 そんなあなたとアイスは、どこか似ているような気がする。


 純粋に野球に向き合ってきた結果、落ちないように必死でしがみついている。


 わたしは棒を見つめながら、感慨深い思いに浸った。


「これあげるから元気出して!」


 わたしは食べ終わったアイスの棒を渡す。


 そこに書かれた「当たり」の文字。


 わたしから送れるささやかなエールだ。


「あ、ありがとう……」


 しばらくあなたは茫然と口を開けていたが、そのうち棒を空にかざして笑顔になった。


 ――それからというもの、あなたは今でもその棒をお守りにして試合に出掛ける。


 今ではすっかり調子がいい投球ができるようになったが、その棒を見せられるとなんだか恥ずかしくなるので、早くアイスと交換して食べてほしい。

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