第228話かき氷のシロップと、変わらないわたしたち

 この夏は、かき氷を食べるのがわたしの日課だ。


 イチゴ、レモン、メロン……毎日違う色のシロップをかけてかき氷を食べる。


 しゃりっとした食感と絹のように舌の上で溶ける感覚がたまらない。


「毎日よく食べるなぁ」


 そこに声をかけてきたのは幼馴染のあなた。


 家が近いから、学校の帰りは一緒に帰ることが多い。


「オレだったらお腹壊す自信あるね」


 そんなわけのわからないマウントをとってくる。


 とりあえず「うるさいなぁ」と不機嫌な一言を返しておいた。


「知ってる? かき氷の味ってみんな同じなんだって」


 あなたはそんなことを言ってきた。


 確かに昔ながらのシロップは、色と香りの違いがあるだけで、味の原料は基本同じだ。


 わたしはかき氷を食べながら「知ってるし」と答える。


 口の中がひんやりとした甘みに満たされて、思わず表情が緩んだ。


「お前幸せそうだな……」


 あなたは少し羨ましそうに目を細めた。


 そして少しの沈黙を挟み、ぼそりとこんなことを言う。


「オレ、今度引っ越すんだ」


 スプーンを咥えたまま、わたしはあなたの顔を見た。


 その表情は少し寂しそうだった。


 聞くところによると遠くに行ってしまうので、もう会えないかもしれない。


 不覚にもわたしの瞳が潤んだ。


「……お前、かき氷みたいだな」


 わたしの顔を見て、あなたはわけのわからないことを言う。


「色んな表情見せるけど、中身は一緒」


 それを聞いたわたしは「意味わかんないし」と一発肩を殴ってやった。


 あなたは「オレも」と言って笑い、わたしも釣られてはにかんだ。


 見上げた空には大きな入道雲。


 その両端に架かるシロップみたいな虹が、七色に輝いて美味しそうだった。

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