第225話文芸部のクーラーが壊れたので先輩の部屋で執筆する

 僕は文芸部に所属している。


 部員は僕以外に女子の後輩が一人。


 将来は恋愛小説家になるのが夢だそうで、日々執筆と勉強に取り組んでいる。


「先輩、クーラーが壊れました」


 唐突にそんなことを言われた放課後のことだ。


 君はメガネをクイッと正しながら天井を見つめている。


 手にリモコンを持ってボタンを押しているが反応がない。


 言葉の通りクーラーが故障してしまったようだ。


 どうしよう、この暑い時期に地獄だぞ……。


「先輩、今から先輩の家に行ってもいいですか?」


 再び唐突なことを言う君。


 メガネをクイッと正して僕に問いかける。


「なんでまた急に?」


「先輩の家に行けばクーラーがあります。そこで小説を書くのです」


 メガネをクイクイッと動かして僕を見ている。


 片付けてもいない部屋を見られるのは恥ずかしい気もしたけれど、無表情の圧に押されて、僕は君を部屋に招待することになった。


「へぇ、これが先輩の部屋ですか……」


 君はクイクイクイッとメガネを動かして部屋をじ~っと睨め回す。


 そんなに見るほどでもないと思うけど……。


 とりあえずクーラーのスイッチを入れて部屋の真ん中に二人座る。


 書きかけの小説を互いに出して、執筆に注力することにした。


 ところが数分後。


 君は「先輩――」と言ってクーラーの温度を下げる。


 少し寒いと思ったのでどうしたのか尋ねると、君はメガネを外してこんなことを言った。


「これで先輩がぼやけます。顔が火照らなくて済みそうです」


 メガネは机の上に置き、執筆を再開した。


 わけがわからない……。


 視界がぼやけているせいか、原稿は誤字脱字だらけ。


 メガネを掛けろと言うのだが、君は火照るからダメですと言うばかりだ。


 クーラーの効いた部屋なのに、なぜか君の温度は上がっている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る