第223話図書室の僕と、外周を走る君

 僕は図書室で夏を過ごす。


 クーラーの効いたこの空間は快適だ。


 ページをめくりながら、ふと窓の外に目をやる。


 そこで女子陸上部の君が、校外のコースを走っている様子が見えた。


「……あれ?」


 この図書館は五階にあるのだが、だからこそ君の違和感に気付いたのかもしれない。


 遠くが見渡せたおかげで、コースの隅でうずくまる姿を見つけることができた。


 暑さでやられてしまったのか?


 とにかく僕は夢中で図書室を飛び出し、校外コースへと向かう。


「だ、大丈夫!?」


 ひとけのないこともあり、君は僕が来るまで誰にも発見されることはなかった。


 ただ、木陰に逃げ込んだおかげで少しはマシだったようだ。


 話しを聞くと、眩暈がしたみたいで、しばらくここでしゃがんでいたのだとか。


 君は「少し休憩する」と言って立ち上がったが、フラついたので僕は肩を貸す。


 念のためこのまま保健室へ連れて行くことにした。


 ――保健室の先生いわく、今日は部活を休んだほうがいいとのことだった。


 陸上の大会を前に、君は頑張り過ぎたようだ。


 今後のことを考えて、今日のところは休むことにする。


 急に放課後の時間が空いた君は、やることがなくて困っているようだった。


「……図書室、行く?」


 僕はなんとなく誘ってみる。


 すると君は「とりあえず行く」というような感じで図書室へとやってきた。


 窓際に座り、適当に持ってきた本を開く。


 君はしばらく外の景色を眺めていたが、すぐに寝息を立てて机の上に伏せていた。


 涼んだことで眠たくなったのだろう。


 僕は邪魔にならないように、静かにページをめくる。

 

 君はどんな夢を見ているのだろう?


 時折脚がビクッと動いているから、夢の中でも無茶していないか心配だ。

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