第222話わたしは今日もヤツを倒す

 今日もわたしは一人で家の中。


 両親は共働きで深夜に帰ってくる。


 まぁ、いつものことだ。


 この日常も小さい頃からなので、すっかり慣れた。


 ああ、今日も静かだ……。


 そんな部屋の片隅で、なにかが動く。


 カサカサと紙を擦るようなその音は、部屋の中を動き回っていた。


「【G】だ……」


 わたしの背筋にイヤな悪寒が走る。


 間違いない。


 恐る恐る部屋の隅を覗くと、真っ黒な影が素早く移動した。


 黒光りした身体と二本の触角。


【G】が部屋に現れてしまった。


「最悪だ……」


 小さい頃からコイツには悩まされている。


 苦手なのはもちろん、留守番中に一人で戦わなければならないので、もはやトラウマレベルだ。


 殺虫剤を持ったままわたしは願う。


 こんなとき、あなたが来てくれたら……。


【ピンポーン】


 そんなとき、玄関でチャイムが鳴った。


 そこに立っていたのはイケメンのあなただった。


 偶然訪れたみたいだけど、わたしは即座に【G】の撃退を依頼する。


 殺虫剤を持ったあなたはすぐさま部屋に乗り込んで、ヤツの動きに耳をすませた……。


「ここだぁァッ!」


 目にもとまらぬ速さでゴミ箱を退かし、飛び出した【G】を一瞬で仕留める。


 しかも殺虫剤の缶で物理的に潰すあたりがあなたらしい……。


 わたしがお礼を言うと、あなたの姿がフッと消える。


 我に返ったわたしは殺虫剤を手にしたまま冷静になる。


 そう、あなたなんて実際にはいない。


 いるのは「わたしの中に生まれたもう一人のわたしの人格」だ。


【G】のトラウマになって以来、わたしは自分を助けてくれるイケメン人格を生み出してしまった。


 これって多重なんとかっていうヤツなのかな?

 

 とにかくわたしは一人きり。


 それでも颯爽と登場してくれるあなたのおかげで、なんとか戦うことができるんだ。

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