第219話二つに分かれた僕の身体が、翌日二人分になっていました

 マジシャンを目指す僕は、学校で手品同好会に所属している。


 同じメンバーの君が好きになってから何度か告白しようと試みていた。


 しかし、君は「手品の上手い人が好き」らしく、単純に告白しただけではいい返事をもらうことはできないと思った。


 そこで僕は究極の技を披露することにする。


 胴体を切りはなすマジックだ。


「どうだー!」


 教室に君を呼び出して、僕は努力の成果を全て出し切る。


 君は拍手して喜んでくれたが、告白する前に緊急事態が発生した。


 上半身と下半身が離れたまま、元に戻らなくなってしまった。


「どうしよう……」


 生きてる自分が不思議だ。


 君はタネを教えてほしいと目を輝かせていたが、披露した本人がわからないので説明ができない。


 今日のところは一旦帰ることにして、今後の戦略を考えよう。


 一晩寝たら元に戻っているかもしれないし……。


 上下の身体を器用に持って帰り、その日は早めに休むことにした。


 ――そして迎えた翌日。


 分かれた半身から肉体が再生して、僕は二人になっていた。


「ナメクジかよ!」


 そんなふうにツッコみながら、慌ただしい朝が始まった。


 僕の分身は感情に忠実らしく、今すぐ君に告白しに行くと言って家を飛び出してしまった。


 朝ごはんの途中だが、放っておくわけにはいかない。


 すぐに追いかけると、分身は君に告白する寸前だった。


 そこで僕は、手に持っていたあるモノを投げつける。


「くらえっ!」


 それは目玉焼きにかける塩だ。


 無我夢中の行動だったが、塩がかかった瞬間、分身はみるみるうちに溶けていった。

 

 マジでナメクジかよ……。


 嘆息する僕のもとに、君はキラキラした瞳で尋ねてくる。


「ねぇ、今のどんなトリック!?」


 聞かれても披露した本人がわからないので説明できない。


 けれど、一つだけ思ったことがある。


 人を好きな気持ちは奇跡を生むのかもしれない。


 それは手品以上に魔法のようだ。


 でも。


 そんなことを思っても、君の前では恥ずかしくて口にすることができない僕だった。

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