第218話本音を喋る扇風機と、わたしの告白

 この街に「本音を喋る扇風機」があるという。


 なんのことかさっぱりだが、とりあえずわたしの家の扇風機が壊れたので、買いに行くことになった。


 家電量販店を探してみるが、こんなときに限ってどこも品切れが続いている。


 諦めかけたそのとき、見たこともない古い店に扇風機が売ってあった。


 値段も安かったので、わたしはその商品を購入することに決めた。


「案外いいじゃん」


 実際使ってみると、なかなかいい風が吹いてくる。


 かなりレトロなデザインだけど、使えるんだったら問題ない。


 涼みながら扇風機の羽根を見ていると、ふと思い出したことがあった。


 扇風機に向かって声を出して、小さい頃よく遊んでたっけ。


 もう高校生だけど、久しぶりに「あ~~」と羽根に向かって声を出してみた。


 が、そこでありえないことが起きる。


『あなたは好きな人がいるね?』


 と、扇風機から声が返ってきたのだ。


 はじめは誰かに見られているのか警戒したけど、扇風機から聴こえるのはわたしの声だ。


 もしかして、これが「本音を喋る扇風機」なの?


 事実、わたしには好きな人がいる。


 男子バスケ部のあなただ。


 ずっと片思いだったけど、しかし扇風機は『告白するな』と警告してくる。


 もし噂が本当なら、この言葉に従ったほうがいいような気がした。


 だからわたしはずっと黙っていたのだが、ある日我慢できなくなってあなたに想いを伝える。


 ――それからしばらく経った現在、わたしはあなたと付き合って二年目だ。


 あとで聞いた話だが、あの扇風機が本音を喋るんじゃなくて、持ち主が本音を喋るようになるらしい。


 それ以来、扇風機は喋らなくなったけど、いまだにわたしは羽根に語り掛けて嬉しくなる。

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