第215話動画と君と室内に降る雨

 僕はよく動画を観る。


 部屋の中でいるときは、だいたいスマホ片手に動画を観ている。


 ベッドの上、トイレの中、カップラーメンができるまで。


 いろんな時間に動画を観ている。


 そんな僕と同じくらい動画を観ている人物がいた。


 映画同好会に所属する君だった。


 同好会唯一の女子生徒で、僕以外の唯一のメンバー。

 

 つまり映画同好会は二人だけ。


 そんな君は毎日動画から映像に関するスキルを勉強しているという。


 今回、観ているだけでは物足りないということで、自ら何かを撮影することにしたそうだ。


 そしてこのプロジェクトにはカメラマンが一人必要とのこと。


 僕はその配役にムリヤリ抜擢されることになった。


「はい。それでは料理を作りまーす!」


 家庭科室にて。


 僕たちは料理のメイキングを撮影することになった。


 なんかありきたりな内容というか……。


 横目を向けると、君はエプロン姿で大いに張り切っている。


 水を差すのも悪いので、とりあえずスマホを向けて撮影を開始。


 なにを作るかと思えば、フツウに目玉焼きを焼いただけだった。


 ……しかもまともに焼けるどころか、ありえないほどの煙が出て、視界が真っ黒になった。


 どうしたらそんなことになるんだよと思いつつ、火を止めようとしたが前が見えない。


 そこに追い討ちをかけるように火災報知機が反応し、非常時のベルが鳴り響く。


 事情を知らない全校生徒はグラウンドに避難し、校舎に取り残されたのは僕たち二人だけだった。


「…………」


 スプリンクラーの雨に打たれて、僕たちは顔を見合わせる。

 

 君はこの光景を壮大なドキュメンタリーとして撮影したらどうかと提案するが、それこそ本当に炎上するよと、釘を刺す僕だった。

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