第214話水泳部のあなたと、夏祭りのわたし。

 もうすぐ夏祭りだ。


 毎年この時期になると近所の空き地から、お囃子を練習する音が聴こえてくる。


 当日は屋台が出たり神輿を担いだりと賑やかになるだろう。


 けれどそれらを差し置いてメインイベントは他にある。


 ――好きな人への告白だ。


 わたしは男子水泳部のあなたが好きだ。


 大会に向けてひたすら努力する姿に惹かれてしまう。


 そんなあなたを祭りに誘うことにした。


 本番の二週間くらい前から浴衣選びに余念がない。


 どの髪型が似合うかなとか、足下はどんなものを履けばいいとか、考えるだけで頭がパニックになりそう。


 そんなこんなであっという間に時間が過ぎ、夏祭りの日がやってきた。


「お、おまたせ……!」


 わたしはぎこちなく挨拶をして、あなたの前に現れる。


 男子の前で浴衣を披露したのは初めてだから少し緊張したけど、案外褒められるわけでもなく、いつも通り挨拶された。


 それから二人でぶらりと歩いたのだが、あなたは屋台へ行っても神輿を見ても水泳に関する話題を口にするばかりだ。

 

 脳みそまで筋肉なの?

 

 なんだか告白する決意が揺らいできたとき、あなたはわたしの肩を掴んでこんなことを言う。


「今度の大会、見に来てくれ!」


 いきなり言われたからびっくりした。


 心臓がドキドキする。


 一途な想いは水泳以外でも顕在だった。


「あ、うん、い、行くよ!」


 わたしは大会に行く約束をする。


 後日――。


 告白できなかった想いを、わたしはエールに変えてあなたに伝えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る