第212話うなじのきれいなわたしは気付かない

 あなたは「うなじ」のきれいな人が好きらしい。


 わたしはそのことを知ってから、わざと後ろで髪を結うようになった。


 首筋がすっきりして夏場の季節にも好都合。


 今日もこのヘアスタイルで学校に通う。


「おはよう」


 そう言いながら、あなたはいつも通りに机に座る。


 だけど髪型に関しては何も触れない。


 こっちがわかるように髪を振ってみても、きょとんとした表情でこちらを見るだけだ。


 いくらなんでも鈍感すぎるだろ。


 頭にきたわたしは、少しいやらしい口調で「なにか気付かない?」と聞いてみる。


 だけどあなたは「う~ん……」と首を捻るばかりだ。


 わたしはため息を吐く。


 もういい。


 なんだかバカらしくなって、翌日から髪を結うことをやめてしまった。

 

 ――そして次の日。


 わたしは髪を下ろした状態で学校に通う。


 いつも通り教室に入ってみんなに挨拶をする。


 ……すると、なんだかあなたの様子がおかしい。


 こちらをチラチラ見たり、そわそわしているように見える。


 まさかこの髪型が気になってるとか?


 でもあなたはうなじが好きなはず。


 この髪型に感心を示すのはおかしい。


「あのさ……」


 そして少し顔を赤らめるあなた。


 え、もしかして告白?


 そんなわけないか。


 あなたはわたしの方を向いて「なにか気付いたことない?」と言ってきた。


 そして「これ、君の好きな髪型だろ?」と、続ける。


 わたしは「へ?」と声を上げてあなたの頭を見た。


 ……いつの間にかツーブロックのショートヘアになってる。


 聞くと一週間くらい前からずっとこの髪型にしていたのだとか。


 まさか互いが髪型に気付いていないというオチ。


 お互い必死かよ……。


 少し気が抜けると同時に、とりあえず「似合ってるよ」と伝えてわたしも髪を結い直す。

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