第209話ゲーム機と膨張する愛

 古い携帯ゲーム機のバッテリーが膨張するとの情報がSNSで話題になった。


 僕も気になって押入れの中を確認してみる。


 するとバッテリーと関係ない別のゲームを見つけた。


 当時人気になった恋愛シミュレーションだ。


 懐かしい。


 小学生ながらにドキドキしたのを覚えている。


「久しぶりに遊んでみるか……」


 ――と、今はそれどころじゃなかった。


 気を取り直してさらに奥のほうを調べてみる。


 すると問題のゲーム機を発見。


 一見すると問題ないように見えるが、とりあえずバッテリーのカバーを開けてみた。


「わぁ、お久しぶりです!」


 バッテリーは女の子になっていた。


 ボンと煙が出てきて、あっという間にバッテリーが等身大の女の子になった。

 

 ……夢かな?


 二度、三度と目を擦って確認する。


 ……やっぱり女の子だ。


 胸の前で両手を握って嬉しそうに微笑んでこちらを見ている。


 僕の脳ミソが膨張したのか?


 混乱する僕をよそに「わたし、あなたとお話できる日を心待ちにしておりました!」と言って手を握ってくる。


 恋愛シミュレーションのし過ぎかな……。


 しかし君の手の感触は本物だった。


 本当に現実なの?


 目をパチパチしていると、君は真剣な表情で口を開く。


「今までわたしと遊んでくれてありがとうございました。そんなあなたに想いを伝えたいんです」


 そんなことを言ってきたが、端的に言ってそれは「好き」という気持ちだった。

 

 君はそれを伝えるために、膨張して人間になったのだという。


 互いの目が合った瞬間、気付いたら二人は唇を重ねていた。

 

 そして――


 気持ちの赴くままに身をゆだねているところで目が覚める。


 …………


 恋愛シミュレーションゲームで遊んでいる最中に寝てしまったようだ。


 いけない。バッテリーを探すんだっけ……。


 僕は再び押入れの中を探りはじめる――。

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